「おわり 黄昏は、すべてが誰そ彼」の詳細記事: 彩
創作小説を掲載するブログです。 幻想世界を基本に書いていきます。
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おわり 黄昏は、すべてが誰そ彼
呼ばれる。
ひゅるひゅると鳴く風の中、銀は足を止めた。
どこまで来たのだろうと、脳裏をよぎった思いはすぐ乾いた風に飛ばされた。どうでもいいことだ。いくつもの大地の息吹といくつもの砂の海を越えて、目指すところへと足を進めていく。
「約束を」
そう、約束を守るために……進む。
小さな粒となった大地が風にのって空に舞い、黄昏時のように、薄暗かった。
―――銀……、
呼ばれている。
銀は、目を細めた。
「……」
砂のむこうに、星の川が見える。そして、銀と、呼びかけられる。
『いつか、そこに行きたい……理想郷に』
いつ、聞いたことだろう。
もう、定かではない記憶。けれど……滅多に望みを言わない紅が口にした想いは、忘れない。時の流れに洗われて、千切れていく情景。星の川は……どんな光を生み出していたか、もうわからない。けれど、紅の声はなくならない。
『そこに行けば、私は私でいられる』
紅の想いは、かすれることなく途切れることなく、自分の中にある。
『私という存在が、許されるトコロ。そこなら――』
紅の、願い。
『銀も、銀。ただの、銀。何者でもない私と銀なら……』
紅の心。
『銀と一緒に、生きれる』
いつも、いつもいつも自分の中に在る。
「……紅」
呼びかける。
自分の大切な存在(ココロ)に、呼びかける。
はじめよう、新しく。
何もないところから、はじめよう。
砂が、すべてを覆って――――自分を呼ぶ声が、風の音にまぎれて聞こえなくなっていく。
銀は、砂の風を睨む。
びりびりと鼓膜を振るわせる風に、声は聞こえなくなった。けれど、どれだけ阻まれようと、自分には見える。
紅は、自分を待っていているのだ。
約束した。
一緒に、行こうと……約束した。
容赦なく打ちつけてくる砂に挑む。
こんなところで立ち止まっているわけにはいかないのだ。
――約束、したのだから……。
銀は、砂の海を一歩一歩、進んでいった。
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